日本がん検診・診断学会設立趣意書
我が国の死亡原因は昭和56年に「がん」が脳血管障害に代わって首位になり、その後も増加傾向が続き、最近では総死亡数の3割を占めるに至っております。がんによる死亡を減少させるためには、その発生の予防、早期発見、新たな治療方法の開発などが考えられます。しかし、予防の面から見ると、がん発生の原因は複合的でかつ長期にわたるものが多く、効果が出るまでにも長期間を要し、一方、治療面では分子標的薬など新たな抗癌剤の開発もあるもののまだ充分とは言えない状況です。従って、がん死亡を減少させるには、早期に発見し確実に治療することが重要と考えられております。
早期発見のために、胃がんと子宮がんの検診が老人保健法の下で最初に開始され、その後肺がん、大腸がん、乳がんの検診が同法の下で行われるようになり、更に肝臓がん、前立腺がん、小児がんの検診も独自に行われておりました。これらのがん検診について、それぞれのデータの発表や方法を検討する学会や研究会はありましたが、がん検診には共通する問題も多いにも関わらず、それらについて合同で討議する場がありませんでした。
このような状況の中で、平成3年10月17日に日本消化器集団検診学会の有賀理事長の呼びかけにより、日本婦人科がん検診学会から天神および野田氏、日本肺癌学会から坪井および成毛氏が代表として出席し会合が行なわれ、「各種がん検診に共通した諸問題、特にがん診断学、検診方法、精度管理、検診の評価及び行政の対応などについて協議し日本におけるがん検診の発展に寄与する」という趣旨のもとに「がん検診協議会」の創設が提案されました。その後、これに賛同した日本腎泌尿器疾患予防医学研究会、日本乳がん検診学会、日本小児がん学会、さらに日本医学放射線学会の代表も参加し、7学会からの代表による協議が重ねられ、平成5年頃より、学会にすべきであるという機運が急速に台頭しました。その結果、基礎研究を主体にした「日本癌学会」、治療を主体にした「日本癌治療学会」に加えて、がんの診断と検診を主体とした研究団体として平成6年12月9日に「日本がん検診・診断学会」が誕生しました。
その後、平成18年に、個々の臓器の検診の専門医も、専門外の部位のがん検診に関しても一定の知識を持つことが必要と考えられるようになり、優れたがん検診のgeneralistを認定するための「日本がん検診・診断学会 がん検診認定医制度」を発足させました。その結果、第1回のがん検診認定医に対する講習及び試験には約70名の会員が、第2回講習及び試験にも50名が受験し、現在までに115名のがん検診認定医が日常の医療とがん検診の場で活躍しております。さらに平成19年12月には、第1回がん検診認定医習熟講習会を開催しました。この日本がん検診・診断学会がん検診認定医制度への一般の医師の関心と期待も大きく、それとともに会員数も2008年8月末現在、720名を越え、学会誌の発行も年3巻となり、学会活動はますます活発になっています。
日本がん検診・診断学会のさらなる発展を目指し、がん検診認定医制度の充実を図ることによって、国民の福祉に寄与するため、ここに特定非営利活動法人日本がん検診・診断学会を設立します。
平成20年11月20日
荒川 泰行